人材確保の方法 -雇用契約・業務委託契約・派遣契約-

October 24, 2022

執筆者:弁護士 石田真由美

 

(目次)

1.はじめに

2.雇用契約について

3.業務委託契約について

4.派遣契約について

5.まとめ

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1.はじめに

 設立した会社の事業が軌道に乗ってきた、事業の拡大に伴って人材を新たに確保したい、そのような場面において、人材確保の方法としてすぐに思いつくのは「従業員を雇う」、つまり雇用契約ではないかと思います。

 人材確保の方法には、自社の従業員として人材を雇用する雇用契約以外にも、業務委託契約や派遣契約という方法もあり、企業のニーズによって、適切な人材確保の方法を選択することになります。本記事では、主だった人材確保の方法として、雇用契約、業務委託契約、派遣契約の3つを取り上げ、企業から見たそれぞれの特徴、メリット、留意点等を簡単にご紹介します。

 

2.雇用契約について

⑴雇用契約とは

 雇用契約は、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」(労働契約法第6条)とされています。

 雇用契約には、労働基準法や労働契約法等の労働関係法令が適用され、例えば、労働時間の規制、賃金の規制等、企業(使用者)が守らなければならない多くのルールがあります。

 

⑵雇用契約のメリット等

 人材は企業の最重要の資産と言ってよく、優れた人材がいるからこそ、企業は経営計画を実現することができ、中長期的に発展、成長します。このため、企業においては、労働条件や福利厚生を整備し、これらを充実させて適切な運用を図ることにより、優秀な人材の確保・定着に努めることになります。

 他の契約形態ではなく、雇用契約によることによるメリットは、例えば、①労働者に対して必要なノウハウ等を教育し、自社の業務等への理解が深い、企業のニーズにあった人材を育成することができる、②安定した労働力の確保ができ、中長期的に活躍する人材の確保ができる、といったことが挙げられます。

 

 一言で雇用契約といっても、その雇用契約の内容は、雇用期間の定めの有無、労働時間の定め、給与の支払い方法、退職金の有無、福利厚生の内容、インセンティブ、各種休暇等、各企業においてそれぞれ異なっており、自社にあった制度設計を行う必要があります。

 

3.業務委託契約について

⑴業務委託契約とは

 業務委託契約とは、企業が外部の企業や個人事業主に対して、特定の業務を委託し、その業務に対して業務委託報酬を支払う契約をいいます。例えば、個人事業主のWEBデザイナーに自社のWEBサイトのデザインを委託する・システムの開発をシステム開発会社に委託する、などといったものです。

 業務委託契約は、原則として、労働関係法令の保護を受けることがなく、委託側と受託側の間で柔軟に契約内容を決めることができます。

 

⑵業務委託契約のメリット等

 企業は、例えば、スポット的にお願いしたい仕事を頼むことができるなど、ニーズに応じて、必要な時期に必要な程度の業務を委託することができ、労働者を常時雇用するよりも人件費を削減できる場合がある、というメリットがあります。

 また、企業内に専門知識やノウハウ等が無くても、外から調達できることから、自社内で一から人材を育成するよりも早くに必要な業務の提供を得ることができ、また、業務の幅も広がります。

 ただし、形式的には、「業務委託」の形をとっていても、その実態が雇用である場合には労働関係法令の適用を受けます。また、その実態が労働者派遣や労働者供給であるという場合には、労働者派遣法・職業安定法・労働基準法等に抵触することになり罰則が科されることもありますので、注意が必要です。

 

 他方、業務委託契約では、中長期的に当該企業のために働くというわけではないため、企業内での専門知識・ノウハウ・技術等の蓄積が困難となり、人材の安定的な確保という観点からも不安が残ることになります。

 

4.派遣契約について

⑴派遣契約とは

 労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」とされ(労働者派遣法第2条1号)、人材派遣をする派遣元企業と労働者が雇用契約を結び、労働者は派遣先の企業で就労する、という契約です。

 労働者派遣は、労働者派遣法(正式な名称を「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といいます)のもと、適切に行われる必要があり、派遣期間・日雇い派遣の禁止・同一労働同一賃金等について派遣労働者を保護するための規制が多くあります。

 

⑵派遣契約のメリット等

 企業において、人材確保は大きな課題であり、多くの労力を要します。そのようななかで、派遣制度を利用すれば、人材派遣をする派遣元企業が、条件にあった労働者を紹介してくれることから、人材確保にかける労力の減少が見込まれます。また、一時的な労働力を必要とする場合には、心強い制度といえるでしょう。

 

 ただし、派遣労働者は、一時的に労務を提供してくれるにとどまり中長期的に働くことが想定されていないため、企業の理念や業務内容等を理解した人材が定着せず、優秀な人材を安定して確保することが困難であるという側面があります。また、優れた人材によって企業にもたらされるノウハウの蓄積等についても難しくなります。

 

5.まとめ

 昨今、ご承知のとおり、働き手において、働き方へのニーズが多様化し、変化しています。企業には、このような「働くこと」に関する世の中の動向にアンテナを張りながら、自社に合った方法により優秀な労働力を確保することが求められます。

 今回、簡単に3つの契約類型をご紹介しましたが、各社それぞれに合った選択が必要です。労務に関する制度設計については、例えば、労働関係法令に照らして実現可能なもの、そうでないものもあり、専門的な知識を要する場合がありますので、お気軽に当スタートアップチームにご相談いただけたらと思います。

以上