スタートアップのステージごとの法務課題

February 8, 2024

執筆者:弁護士 西口健太

1.はじめに

2.シード期の法務課題

3.アーリー期の法務課題

4.ミドル期の法務課題

5.レイター期の法務課題

 

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1.はじめに

 スタートアップ企業は急激な勢いで成長していき、人数規模が大きくなり、法務課題も複雑化していくことが多いです。

 他方で、特に創業初期は法務に割けるリソースも乏しく、法務リスクを見落としたまま事業が進んでいくことも珍しくありません。

 そこで、以下では、スタートアップ企業のステージごとに、どのような法務面の手当てがされるべきかというポイントを押さえていきたいと思います。

 

2.シード期

⑴事業の適法性

 スタートアップ企業の事業がそれまでにない新奇なビジネスモデルの場合、そもそもそのモデルが適法なのか、仮に現状では違法であるとすればどのように組み直せば適法になるのかを検討する必要があります。特に、保険・金融などの業界であれば、業法上の制約も多いです。

 この点は、事業の根幹に関わりうるため、慎重かつ多角的な検討が必要になります。場合によっては、グレーゾーン解消制度等を活用して適法性を確認したり、監督官庁への働きかけを行うこともあります。

 

⑵許認可・届出等

 スタートアップ企業の事業によっては、ビジネスを行うために許認可や届出等が必要になることがあります。例えば、(具体的な態様に応じてですが)カーシェア事業であれば道路運送法上の許可等が必要になりえます。また、見落としがちですが、チャット機能を含むサービスを開発・提供している場合、電気通信事業法上の届出が必要になる場合がある点にも注意が必要です。

 この点も、事業の根幹に関わるため事業を開始する最初の段階で確認し対応することが必要です。

 

3.アーリー期

⑴利用規約、プライバシーポリシー

 サービスの開発が完了し実際に顧客に提供する段階になると、特にSaaS型のサービスやBtoCのサービスでは、多数の顧客との契約関係を統一的に管理するため、当該サービスの利用規約を作成する必要が生じます(ちなみに、利用規約を定めていると、契約交渉をされにくいというメリットもあります)。利用規約については、当該サービスの運営の手続や万が一のトラブルの場合の対応などを定めるものであり、しっかりした利用規約を定めることはサービスの円滑な運営を可能にするため、ぜひ自社サービスに合った内容で作成するべきです。

 この点、インターネットなどで探した「ひな形」を流用する例が散見されますが、自社のビジネスモデル・運用に特有の問題点をカバーしていないことが多い点に注意してください。

 利用規約は自社の権利・利益をしっかりと守ることのできる内容である必要がありますが、他方であまりに顧客に不利な内容だと反発を受けることもあるので、顧客目線も忘れないようにしたいところです。

 顧客目線という意味では、プライバシーポリシーについてもバランスの取れた内容で定める必要があります。

 

⑵契約書ひな形の作成

 製品・サービスの開発が完了し、それを顧客に販売していくにあたって、利用規約という形が適当でない場合は、個別に契約を締結していくことになります。この際、商談のスピード感の維持、自社の権利の保護、そして自社の法務チェックの効率化の観点から、契約書のひな形を作成することは有用です。

 

⑶就業規則などの整備

 従業員数(アルバイト等も含む点にご注意ください)が10人以上となると、就業規則を作成・届出する義務が生じます。

 特にスタートアップ企業ではリモートワークを含めて柔軟な働き方を従業員に認める例が多いですが、就業規則を作成する場合にはそのような働き方を適切に反映した内容とするべきです。

 この点、就業規則は、一度定めると、原則として一方的に従業員の不利益に変更することはできないため、安直に作成すべきではありません。

 他方で、従業員数が10人を超えているのに就業規則を作成しておらず、出資を検討しているVC(ベンチャーキャピタル)のデューデリジェンスで指摘されて慌てて作成する羽目になる例も見られます。

 そのため、会社に適した働き方の方向性が見えてきた段階で、従業員数が10人に至る前にある程度余裕を持って就業規則を作成することが望ましいと思われます。

 その他、従業員に時間外労働等(いわゆる残業)をさせる場合には労使協定(36協定)の締結・届出が必要となります。残業がまったくないスタートアップ企業は存在しないと思われるので、この対応はほぼ必須です。

 また、意外なところでは、労働基準法では休憩時間を全社員に一斉に取得させるのが原則となっています。スタートアップ企業の働き方にはそぐわない場合がほとんどなので、この原則が適用されないようにするために、その旨の労使協定の締結が必要です。

 このような基本的な労務の体制についてはシードないしアーリー期の段階から対応する必要があります。

 

⑷株主総会など会社法上の手続

 本店の移転、種類株式や新株予約権の発行などを行う場合、会社法上、株主総会決議などが必要となります。

 スタートアップ企業の場合、創業直後は創業者や親しい知人のみが株主であることが多く、株主総会についても柔軟に対応しやすいです。しかしながら、アーリー期に至り、優先株式による資金調達などを経ると、VCなどの投資家も株主となり、それらの株主にも株主総会において議決権を行使してもらう必要が生じてきます。また、出資時に株主間契約書などを締結し、同契約書において、一定の行為(例:1000万円以上の借入れ)を行う場合には事前に特定の株主の承認を得なければならないと定められることもあります。

 したがって、特にアーリー期以降では、どのような場合にどのようなアクション(株主総会決議、特定の株主の事前承認など)が必要になるのかという整理を行い、その整理に従って適法かつ契約違反にならないように会社を運営する必要があります。

 このほか、これはシード期からですが、毎事業年度、定時株主総会を開催する必要もあります。特に取締役の任期が切れるときの再任を忘れがちなので、ご注意ください。

 

4.ミドル期

⑴安全衛生管理体制の整備

 ミドル期ないしレイター期になり、従業員数が50人以上になると、産業医を1人以上選任することが労働安全衛生法等の法令により義務付けられます。また、労働者の健康障害防止等に係る事項を調査審議するための機関として衛生委員会を設置しなければならず、従業員のストレスチェックの実施・報告も義務となります。

 これらは法律上の要請であるばかりでなく、従業員の心身の健康維持のためにも重要なので、忘れず対応するようにしたいところです。

 

⑵契約稟議など社内体制の構築

 スタートアップ企業がミドル期に至ると、事業拡大局面となり、他社と交わす契約の数も増えてくるため、契約書の決裁・稟議に関するルール化の必要性も増してきます。

 

⑶社内研修などによる社内の法務リテラシー・コンプライアンス意識の向上

 契約の数が増えてくるに従い、法務担当の負担を少しでも軽減するため、自社の契約ひな形を活用することも有用です。その前提として、事業部に一定の法務リテラシーを身に付けてもらう必要があるため、事業部を対象に、契約の基礎知識や自社のひな形に関する社内研修などを実施することも考えられます。

 また、上場が近づくとコンプライアンス体制を整えることも必要になるが、役員・従業員のコンプライアンス意識は一朝一夕には高まりません。そのため、ミドル期に至るころには、情報管理やハラスメント防止等のテーマで定期的に社内研修を行うことも有用でしょう。

 

5.レイター期

 レイター期に至ると、IPOが間近に迫ってきます。社内規程の整備や、ガバナンス体制の強化、労務問題の洗い出しと対応、取引先との契約の見直しなど、IPOに向けた種々の準備を行うことになります。

 

 スタートアップ企業には他にも色々な法務課題がありえますが、まずは以上を眺めていただき、最低限の法務リスクを押さえていっていただきたいと思います。

以上