会社設立の基礎

August 17, 2021

執筆者:弁護士 佐藤 樹

1 はじめに

  会社を設立するというと特別なことのように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、会社という入れ物をつくって事業を行うことは社会一般において広く行われています。起業=会社を作ることとイメージされている方も多いと思いますが、会社を作るといっても、どんな会社を作れば良いのか、どんな流れで会社を作れば良いのか、考えること、やることも多く、いきなり作ろうと思ってもなかなか思うようにいかないことが多くあります。この記事では、会社を作るための大まかな流れや手続について説明します。

 

2 会社の種類

  我が国には、株式会社だけでなく、合同会社、合名会社、合資会社という4つの会社の形態が存在しますが、一般によく使われるのは、株式会社と合同会社です。

  IPO(株式上場)やバイアウトによるEXITを想定しているような場合には株式会社を選択するのが一般的ですが、EXITを想定していない場合や、とにかく初期費用(合同会社の設立には、定款認証に係る費用が掛からず、登録免許税も6万円と低廉です)や維持費用(合同会社では、決算公告の義務がなく、役員任期の更新も不要ですので、公告費用や登記費用を抑えることが可能です)を抑えたいという場合には合同会社とすることも検討の余地があります。合同会社は知名度がなく信用が低いと言われることもありますが、現在では、グーグル、アマゾンジャパン、アップルジャパン、ユニバーサルミュージック、西友(米ウォルマート傘下)など、米企業の日本法人子会社が合同会社の形態を取るようになり、信用性や知名度についてはそこまで気にしなくて良い状況になっていると思います。スタートアップ企業では、通常はIPOやバイアウトを目指すので、株式会社にすることが多いです。

 

  以下では、株式会社の設立手続を中心に説明します。

 

3 株式会社設立(発起設立)の流れ

  株式会社を設立するに当たっての流れは以下のようになります。

 

 ⑴ 発起人の決定

   1人で会社を設立する場合にはあまり問題となることはありませんが、複数人で会社を経営する場合には、会社の設立手続を行う人を選ぶ必要があります。発起人がそのまま設立時取締役となるケースが多いですが、発起人以外を設立時取締役とすることも可能です。なお、2018年11月30日から、公証役場における定款認証手続において実質的支配者となるべき者の申告制度が始まり、株主となる者のうち特定の要件を満たす者について暴力団員等に所属していないことを申告する必要があります。出資をする発起人はそのまま株主となりますので、出資をする発起人の中で暴力団員等に該当する者がいる場合には、定款認証の手続を行うことができない場合があります。

 

 ⑵ 定款の作成

   会社の基本的な決まり事を定める定款を作成します。大まかな枠組みとしては、①総則(商号、目的、本店所在地、公告方法等)、②株式(発行可能株式総数、株券発行の有無・種類、株式の譲渡制限、基準日等)、③株主総会(招集手続、議決要件等)、④執行機関(取締役及び代表取締役、取締役会、委員会、執行役)、⑤監査機関(監査役、監査役会、会計監査人、会計参与等)、⑥計算(事業年度等)、⑦附則(発起人の氏名又は名称・住所、現物出資、財産引受、最初の事業年度、設立に際して出資される財産の価額又はその最低額)という形で定款を作成していきます。定款はいわば会社という組織の基本的な設計図ですから、会社の実情に合わせてしっかり作成する必要があります。

 なお、いったん定款を作成すると、変更に際して株主総会における特別決議(行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)が必要となってしまうため、安易に作成してしまうと、株主構成によっては後々の定款変更が困難となる可能性があります。定款作成の時点でしっかりとした定款を作成することが重要です。

 

 ⑶ 定款の認証

定款は公証役場にて公証人による認証をする必要があります。電子定款とする場合には印紙税は掛かりませんが、紙の定款で認証をする場合には、別途印紙税として4万円が掛かることになりますので注意が必要です。なお、テレビ電話を用いた認証も可能ですので、公証役場に直接出向くことなく定款認証をすることができる場合もあります。なお、公証役場にて認証が必要なのは会社設立時の定款(原始定款)のみで、設立後に定款変更をする際には認証は不要です。

 

 ⑷ 発起人による払込

発起人名義の口座に資本金となる出資財産を振り込み、通帳又はネットバンクの口座画面を印刷して払込証明書と一緒に綴じ込んだうえで、登記申請時に併せてこれを法務局に提出する必要があります。

 

 ⑸ 登記申請

オンラインでの登記申請が可能ですが、一部書類(印鑑届書等)については法務局に郵送する必要があります。2020年3月17日から、オンライン申請のうち役員等が5人以内で定款等の添付書面情報が全て電磁的記録により行われている場合に限り、24時間以内処理の対象として、原則として申請から24時間に登記が完了する運用となっています。

なお、登記をする際に設立時の議事録や決定書等の原本を付属書類として法務局に提出しますが、後にVCなどから出資を受けたり、バイアウトする場合にこれら附属書類の提出を要求されることがありますので、登記申請時に原本還付の申請を忘れずにしておく必要があります。

 

 ⑹ 登記完了(会社成立)

登記申請日(≠登記完了日)が会社設立日となります。会社設立日にこだわりがある場合には登記申請日をいつにするか注意が必要です。

  

4 会社設立をするに当たって決めるべきこと

 ⑴ 会社の商号の決定

   会社の名前である商号を決定する必要があります。商号が、既に存在している会社と重複する場合には、後々紛争となる可能性がありますので、既に存在している会社と商号が重複していないか確認する必要があります。登記情報提供サービス(https://www1.touki.or.jp/)というサイトで登記されている企業の商号を確認することが可能ですので、確認したうえで商号を決定することをおすすめします。

また、商号と同じように、商標と重複する会社名を付けることも後の紛争となる可能性がありますので、既に存在している商標名と重複しないか、同じように確認することをおすすめします。商標については、J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)というサイトで確認することが可能です。

 

 ⑵ 事業目的の決定

   なにをするために会社を設立するのかという事業目的を決定する必要があります。後から事業目的の変更のためだけに定款変更をしたうえで登記申請を行うのも手間と費用が掛かりますので、設立時点で事業として行う可能性のあるものについては広く事業目的として登記をしておくことをおすすめします。なお、会社の事業によっては許認可を得る必要がありますが、許認可事業については事業目的中に許認可対象となる事業名を入れておかないと許認可を得ることができなくなってしまうので、許認可対象事業を営もうとする場合には特に注意が必要です。

 

 ⑶ 本店所在地の決定

 会社の本店をどこにするか決定する必要があります。基本的にどこでも登記をすることが可能ですが、会社設立後、法人番号指定通知書等の書類が本店所在地宛に送付されますので、実際に郵便物等を受け取ることができる場所にする必要があります。起業したての頃には、自宅住所とする方も多くいますし、シェアオフィスを本店所在地とする方もいます。

 

 ⑷ 事業年度の決定

  事業年度とは決算の対象となる期間の区切りです。我が国では、伝統的に4月1日から3月31日(3月決算)とする企業や、1月1日から12月31日(12月決算)とする企業が多いです。しかし、事業年度は自由に設定することが可能ですので、会社の実情に合わせて決定することが大切です。会社設立時の資本金が1000万円未満の会社(1000万円未満でも課税売上高が1000万円を超える場合には×)については、設立から2期目までの事業年度について消費税が免除される場合がありますので、消費税免除の期間を最大化するために事業年度を設定したり、顧問税理士や顧問会計士の繁忙期をさけて事業年度を設定したり(3月決算や12月決算は税理士、会計士の繁忙期となります)、海外への進出を考えている企業では海外の決算年度に合わせたり等、いろいろなケースがあります。

 

 ⑸ 機関設計と役員の決定

   株式会社では、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計監査人、会計参与、委員会等の様々な機関の設置が可能です。少なくとも取締役については必須の機関となります。それ以外の機関については、完全に設置が自由な機関もありますが、会社法で設置を義務づけられている機関もありますので、注意が必要です。

 

 ⑹ 資本金額の決定

資本金とは出資者が企業に拠出した資金であり、会社の純資産です。過去には、株式会社を設立するに当たって、最低でも300万円(旧有限会社の場合)の出資が必要となることがありましたが、現在では最低資本金規制は撤廃されており、資本金が1円でも会社設立が可能となっています。

① 会社の信用

もっとも、資本金は、会社の信用に関わるものであり、登記事項にもなっていますので、あまりに少額な資本金の設定では取引先からの信用を得ることができない可能性があります。

② 融資における自己資金

また、日本政策金融公庫からの融資では、自己資金として資本金を扱いますので、資本金が著しく低い場合には融資において不利に働く場合があります。なお、正確には、自己資金と資本金は別物ですので、融資審査の際には、実際に通帳の写し等から自己資金の有無を判断しますから、必ずしもイコールではありません。しかし、あまりに低廉な金額を資本金として設定している場合には融資において不利になることがありますので注意が必要です。

③ 許認可における資本金要件

加えて、許認可が必要な業務の中には資本金要件があるものがあります(金融商品取引法上の金融商品取引業や労働者派遣法上の労働者派遣事業)ので、許認可業務において資本金要件がある場合には、資本金要件を満たすように資本金を設定する必要があります。

④ 消費税免税事業者

そして、⑷でも記載をしたように、消費税免税事業者となるか否かについても資本金の額が影響してきますので、税務上のメリットを享受するためにも資本金の金額をいくらかにするかという点はよく考える必要があります。

 

 ⑺ 発行可能株式総数の決定

   その会社において発行できる株式の上限を発行可能株式総数といいます。発行可能株式総数を決める理由は、経営陣の無制限な株式の発行を防ぐことにより株主の利益を保護するという点にあります。会社法上、発行可能株式総数を超える株式の発行はできず、無制限な株式の発行が防がれるようになっています。なお、非公開会社(株式に譲渡制限を付した会社)の場合には、発行可能株式総数について規制はありませんが、公開会社(株式に譲渡制限を付していない会社)の場合には、設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の1/4を下回ることができないというように規制がありますので、公開会社として設立する場合には注意が必要です。

 

 ⑻ 発行する株式の種類、数量、金額の決定

   定款では発行する株式の種類、数量、1株当たりの金額等も記載するのが通常です。わかりやすく1株1万円でというような決め方をされる方もいますが、設立時の発行株式数が少な過ぎると、従業員にストックオプションを発行する際やVC(ベンチャーキャピタル)等から出資を受ける際に持株比率の調整ができず、株式分割の手続を行って株式数を増やす等の対応が必要となることがありますので、今後の資本政策を見据えて発行株式数を設定する必要があります。特にスタートアップ企業でありがちなミスとして、発行可能株式総数を小さくしすぎたり、1株あたりの金額を大きくしすぎたりすることがよくありますので、注意が必要です。

 

 ⑼ 公告方法の決定

   会社には公告義務がある手続があります。代表的なものは、決算公告です。中小企業では行われていないケースもありますが、会社法上、決算については公告をしなければなりません。この際、どのような媒体で公告をするのかということも設立時に決めておく必要があります。

   公告方法には、官報、日刊新聞紙、電子公告という3つの方法がありますが、官報公告を選択される方が多いです。官報公告には1回数万円から数十万円の費用が掛かりますので、電子公告を選択したいという方も多いですが、電子公告には次のようなデメリットがありますので、よく検討する必要があります。なお、通常の公告は官報公告とし、決算公告のみを電子公告にて行うことも可能です。

 

  ※ 電子公告のデメリット

  ① 決算公告の場合には決算書類全文の掲載が5年間必要

    官報公告の場合には原則として貸借対照表の要旨のみの記載で良いのですが、電子公告の場合には、貸借対照表の細かな科目まで、計算書類の承認後、5年間の間、公開し続けるする必要があります。

  ② URLの登記が必要

    電子公告をするURLについても登記が必要であり、URLを変更する場合にも登記が必要です。

  ③ 調査機関による調査が必要(決算公告を除く)

    電子公告の場合には、登記されたURL上に間違いなく公告がされているかどうか調査機関による調査が必要となりますが、広告調査委託料として数万円から数十万円の費用が掛かります。

 

以上