ステマ規制について

October 5, 2023

執筆者:弁護士 佐藤 樹

(目次)

1.ステマ規制とは

2.具体的にどのような表示が違法となるのか

3.まとめ

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1.ステマ規制とは

 昨今「ステマ規制」と最近盛んに言われるようになりましたが、2023年10月1日から、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)第5条第3項に基づき「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の告示がなされ、景表法において、ステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます。)が規制されることに端を発しています。

 これまで日本ではステマは法的に全く規制されておらず、事実上野放しの状態にありました。他方、アメリカ、EU、中国では既にステルスマーケティングに対する規制がなされており、諸外国における規制との不均衡も指摘がされているところでした。

 そのような中で、日本でもステマが初めて景表法において明示的に規制されることとなりました。

 また、ステマ規制は、2023年10月1日より前の広告にも適用されます。そのため、これまでにステマ規制に該当する可能性のある行為を行っていた企業は、過去の広告についても改めて見直す必要があります。

2.具体的にどのような表示が違法となるのか

(1)基本的な考え方

 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」をすることが違法となるとされていますが、具体的には、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であるにもかかわらず、事業者の表示であることを明瞭にしないことなどにより、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示が違法となるとされています。

 一般消費者は、事業者の表示に対しては、ある程度の誇張や誇大がありうることを前提に広告内容を吟味しますが、事業者ではない者が事業者の表示ではない体裁で「一利用者としての感想」という形で表示をする場合には、誇張や誇大が含まれない生の感想として捉える傾向が強くなります。そのため、景表法においては、このような表示主体の側から、不当な顧客誘引に繋がるステマを規制しています。

(2)違法な表示となりうる2つの判断軸

 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」に当たるか否かは、①事業者が表示内容の決定に関与しているかどうか、②関与しているとして、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭に表示されているか、という2点から判断されることとなります。

(3)事業者が表示内容の決定に関与しているかどうか

 ①について見ると、ⅰ事業者が自ら行う表示であるか、ⅱ事業者が第三者をして行わせる表示であるか否かという観点があります。

 ⅰについては、事業者と一定の関係を有する者、たとえば、役員や従業員等が行う表示を企図しており、このような場合には、原則として事業者が表示内容の決定に関与していると評価される可能性が高くなります。ただし、当該役員や従業員等の地位や立場次第では、事業者が表示内容の決定に関与しているものと評価されない場合も想定されますので、ケースバイケースということになります。

 ⅱについて、こちらがステマの典型例と思われますが、ECサイト等に出店する事業者がブローカーやインフルエンサーに明示的に依頼して、自らの商品についてレビュー投稿をさせるような場合があります。このⅱの類型では、明示的に依頼していない場合であっても、事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、事業者の表示となるとされており、極めて微妙な判断が求められる場合が多くあります。たとえば、明示的に広告宣伝を依頼していなくても、遠まわしに当該第三者に自らとの今後の取引の実現可能性を想起させたりするような場合には、事業者が表示内容の決定に関与した判断とされる可能性があるということになります。

 そうなると、かなり広い範囲で事業者が表示内容の決定に関与した表示とされる場合が出てきます。では、どのようなものであれば、「事業者が表示内容の決定に関与した」ものとされないのでしょうか。

 この点に関し、消費者庁が公表している「「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準」(以下「運用基準」といいます。)では、次のような場合(一部抜粋)には、事業者が表示内容の決定に関与したとはされないとしています。

<具体例>

ⅰ「第三者が事業者の商品又は役務について、SNS等に当該第三者の自主的な意思に基づく内容として表示(複数回の表示も含む。)を行う場合。」

ⅱ「事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」

ⅲ「ECサイトに出店する事業者が自らの商品の購入者に対して当該ECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼として、次回割引クーポン等を配布する場合であっても、当該事業者(当該事業者から委託を受けた仲介事業者を含む。)と当該購入者との間で、当該購入者の投稿(表示)内容について情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われておらず、客観的な状況に基づき、当該購入者が自主的な意思により投稿(表示)内容を決定したと認められる投稿(表示)を行う場合。」

ⅳ「第三者が、事業者がSNS上で行うキャンペーンや懸賞に応募するために、当該第三者の自主的な意思に基づく内容として当該SNS等に表示を行う場合。」等

 ただし、上記の具体例についても、あくまで「第三者の自主的な意思による表示」であることが重要な考慮要素となっており、実態として事業者から第三者への働きかけが認められるようなケースでは、事業者が表示内容の決定に関与していると見られてしまうので注意が必要です。判断が微妙な場合には、下記②のとおり事業者の表示であることを一般消費者に対して明瞭に表示するという対応をとる方が安心、かつ対応方法として分かりやすい場合も多いかと思います。

②一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭に表示されているか

 事業者が表示内容の決定に関与しているといえる場合であっても、直ちに違法となるわけではありません。事業者が表示内容の決定に関与しているといえる場合であっても、事業者の表示であることが明瞭に表示されていれば、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」には当たりません。

 事業者の表示であることが全く記載されていない場合には、事業者の表示であることが明瞭に表示されているとは当然言えませんが、事業者の表示がされている場合でも、それが「不明瞭」な場合には、NGです。景表法で問題となりやすい「打消し表示」や「強調表示」の考え方と同じような考え方が基礎にあると思われますが、たとえば、運用基準では、次のような類型を「不明瞭」な表示としています。

<具体例>

ⅰ「文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。あるいは、文章の冒頭に「これは第三者としての感想を記載しています。」と記載しているにもかかわらず、文中に「広告」と記載し、事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。」

ⅱ「動画において事業者の表示である旨の表示を行う際に、一般消費者が認識できないほど短い時間において当該事業者の表示であることを示す場合(長時間の動画においては、例えば、冒頭以外(動画の中間、末尾)にのみ同表示をするなど、一般消費者が認識しにくい箇所のみに表示を行う場合も含む。)。」

ⅲ「事業者の表示である旨を周囲の文字と比較して小さく表示した結果、一般消費者が認識しにくい表示となった場合。」

ⅳ「事業者の表示である旨を、文章で表示しているものの、一般消費者が認識しにくいような表示(例えば、長文による表示、周囲の文字の大きさよりも小さい表示、他の文字より薄い色を使用した結果、一般消費者が認識しにくい表示)となる場合。」

ⅴ「事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(例えば、SNSの投稿において、大量のハッシュタグ(SNSにおいて特定の話題を示すための記号をいう。「#」が用いられる。)を付した文章の記載の中に当該事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合)。」

 そのため、事業者が表示内容の決定に関与した場合には、例えば、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」等という表示を、不明瞭な点が無いように上記基準に従って行い、一般消費者が事業者の表示であることを明確に理解できるようにする必要があります。

3.まとめ

 以上、ステマ規制では、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」をすることが違法となるとされ、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」に当たるか否かは、①事業者が表示内容の決定に関与しているか、②関与しているとして、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭に表示されているかという2軸によって判断されることとなります。

①は明示的な依頼をしていなくても、客観的な状況から表示をさせていると認められるような場合にも事業者の表示とされる可能性があり、②では事業者であることを表示していても不明瞭な場合には違法とされる可能性がある形になっているという点で注意が必要です。

以上