日本政策金融公庫の融資制度

August 17, 2021

執筆者:弁護士 布浦 直

1 総論

  スタートアップ企業にとって、どのように資金を調達するかは重要な問題であり、今後の事業の行く末を見据えて、計画的な資金調達を行う必要があります。

  資金調達方法には大きく分けて2つあり、1つが、借入による調達(金融機関からの融資)、もう1つは出資による調達(株式発行などのエクイティ・ファイナンス)です。

エクイティ・ファイナンスの重要性はいうまでもありませんが、スタートアップ企業の活躍が目覚ましい今日においては、スタートアップ企業の特徴に合わせた融資制度も登場しており、これらを有効利用することで、事業をより充実したものにできる可能性があります。

  本記事では、スタートアップ企業への融資を多数扱っている、日本政策金融公庫の融資制度についてご紹介いたします。

 

2 日本政策金融公庫(https://www.jfc.go.jp/)について

  日本政策金融公庫(以下、「公庫」といいます。)は政府系金融機関の一つであり、国が株式の100%を常時保有することが法律で定められている特別な金融機関です。

  公庫は、前身である国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫の3つの機関が統合されてできたもので、これら前身の3機関の担当していた業務が、公庫での下記の3事業に対応しています。

公庫の理念の1つに、「日本経済の成長・発展への貢献」があります。公庫は、この理念に基づき、国の政策の下、スタートアップ企業を含む中小企業や小規模事業者等を対象に、創業支援や新事業の育成支援等に対応する融資を行っています。公庫は、一般の金融機関が行う金融を補完する役割を担っています。

https://www.jfc.go.jp/n/company/summary.html#sme1より引用)

 

3 スタートアップ企業向けの融資制度

 ⑴ 前記のとおり、公庫は、複数の政府系金融機関が統合されてできたものであり、3つの機関がその特徴を残したまま、それぞれ公庫内で各事業の役割に応じた融資を行っています。

  多くのスタートアップ企業に関係する融資は、国民生活事業・中小企業事業が担当しています。

  以下では、簡単にこれらの事業の特徴を説明し、それぞれの事業が扱うスタートアップ企業向けの代表的な融資制度を紹介します。

 

 ⑵ 国民生活事業(https://www.jfc.go.jp/n/company/national/summary.html

   国民生活事業では、数多くの事業者への小口融資が中心に行われています(1融資先あたりの平均融資残高は702万円と、小口融資主体であることがわかります。)。

  具体的な融資のメニューとしては、以下のようなものがあります。

 

  ①新規開業資金(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html)

   技術やサービス等に工夫を加え、多様なニーズに対応する事業を始めることや、雇用の創出を伴う事業を始めること等の一定の要件のいずれかに該当する場合に利用できる制度です。新たに事業を始める方や、事業開始後おおむね7年以内の方などが対象となっています。

  融資限度額は7,200万円(うち運転資金が4,800万円)であり、設備資金については20年以内の、運転資金については7年以内の返済が予定されています。

  保証人・担保の有無については、企業の状況・希望によって決められることとなっています。

  なお、この融資制度では、一定の要件を満たす必要はありますが、下記で詳しく説明する挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)を利用することができます。

 

  ②新創業融資制度(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_shinsogyo_m.html

   新たに事業を始める方や、事業を開始して間もない事業者が、無担保・無保証人で利用することができる融資制度です(ただし、創業の要件の他に、雇用創出等の要件や、自己資金要件等を満たす必要があります。詳しくは、上記公庫のホームページもご確認ください。)。

   融資限度額は3,000万円(うち運転資金が1,500万円)であり、保証人や担保は原則として不要という点が特徴です。

 

  ③女性、若者/シニア起業家支援資金(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/02_zyoseikigyouka_m.html)

  事業開始後おおむね7年以内の女性の方や、35歳未満か55歳以上の方向けの融資制度です。なお、この制度は、国民生活事業・中小企業事業のいずれにおいても取り扱いがあります。

  国民生活事業における本融資制度の融資限度額は7,200万円(うち運転資金が4,800万円)であり、設備資金については20年以内の、運転資金については7年以内の返済が予定されています。他方、中小企業事業の融資限度額は、最大7億2,000万円(うち運転資金2億5,000万円)となっています(中小企業事業の説明は後述します。)。

  条件を満たした場合、有利な利率での融資を受けることが可能です。

  また、この融資制度についても、一定の要件を満たす必要はありますが、下記で詳しく説明する挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)を利用することができます。

 

⑶ 中小企業事業(https://www.jfc.go.jp/n/company/sme/outline.html

  中小企業者の事業の振興に必要な資金であって、長期固定金利の事業資金を安定的に供給することにより、民間金融機関による資金供給を補完しています。国民生活事業に比して、融資限度額は多額です。

中小企業事業のスタートアップ企業向けの融資制度としては、新事業育成資金(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01.html)が代表的です。

  新事業育成資金は、新しい技術の活用、特色ある財・サービスの提供などにより市場を創出・開拓し、高い成長性が見込まれる中小企業者を支援する制度です。

  公庫の成長新事業育成審査会から事業の新規性・成長性の認定を受けるなど、要件を満たす必要はありますが、融資限度額は最大6億円です。

 

⑷ スタートアップ企業に特におすすめの融資制度

ア 上記で紹介した新事業育成資金等においては、ⅰ資本性ローン・ⅱ新株予約権付融資といった融資制度を利用できる場合があります。以下ではこの点について紹介いたします。

 

 イ ⅰ資本性ローン(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/57.html

資本性ローンは、無担保・無保証の融資制度です。資本性ローンには下記のとおりいくつかの特徴があります。

 

●特徴① 期限一括返済

資本性ローンを利用した場合、期限一括返済(最終回の一括払い)となり、期限までの間は、利息のみの支払となります。そのため、融資期間中は元金の返済負担がなく、月々の資金操り負担を軽減することができます。

●特徴② 業績に応じた金利設定

業績が低調なときは、金利負担が小さい設定となっています。そのため、安定的な返済計画を立てることができます。

●特徴③ 疑似出資

資本性ローンによる借入金は、金融検査上、自己資本とみなすことができます。そのため、財務体質を強化することができます。また、資本性資金でありながら、株式ではないため、既存株主の持株比率を低下させることもありません。

 

   このように、資本性ローンは、株式持分の希薄化を考慮せずに、財務体質を強化できる点で、スタートアップ企業にとって非常に有用な制度であるといえます。

 

 ウ ⅱ新株予約権付融資(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/shinkabu.html

 新株予約権付融資は、高い成長性が見込まれる新事業に取り組むスタートアップ企業が発行する新株予約権を、融資と同時に公庫が取得することで、無担保での融資を行う制度です。

 このような仕組みからすると、株式の持分割合希釈の恐れがあるようにも思えますが、公庫が新株予約権を実際に行使して株式を取得することはありません。原則として、株式公開等、一定の条件が満たされた場合に、公庫が経営責任者の方などに新株予約権を売却することが想定されています。

 これも、事業実績や担保等に乏しい一方で、独自のアイデア等で急成長が見込まれるスタートアップ企業にとっては、長期の借入が可能となる有用な融資制度であるといえます。

 

エ なお、これらの制度を実際に利用したスタートアップ企業が、公庫のホームページ(https://www.jfc.go.jp/n/finance/start-up/jirei.html)にて紹介されています。

 

4 新型コロナウイルス感染症に関する融資(新型コロナ対策資本性劣後ローン) https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/shihonseiretsugo_t.html

 昨今の新型コロナウイルス感染症の流行による経済的打撃は、スタートアップ企業にとっても多大な痛手となっています。

 そこで、経済産業省は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている、スタートアップ企業を含む中小企業に対して、出資等を通じた資本増強策を強化することで、スタートアップの事業成長下支えや事業の「再生」により廃業を防ぐとともに、V字回復に向けた「基盤強化」を図るという目的の下、新たな融資を開始しました。それが、資本性劣後ローンです。

  公庫や商工中金等において、民間金融機関が自己資本とみなすことができる資本性劣後ローンを供給することで、民間金融機関等からの円滑な金融支援を促しつつ、事業の成長・継続を支援する取り組みがなされています(仕組みとしては、前記資本性ローンとほぼ同様ですが、条件を満たした場合、別枠での融資を受けることが可能です。)。

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf リンク先PDFファイルの47頁もご参照ください。)

  

5 まとめ

 昨今、スタートアップ企業が成長しやすい環境を整備する取り組みが政府によって積極的にとられており、公庫は政府系金融機関として、金融面から様々なメニューを用意してスタートアップ企業を支援しています。

 公庫の上記各融資制度をご覧になり、興味を持たれたら、事業資金相談ダイヤル、または最寄りの公庫の支店にご相談されるとよいと思います。

【参考URL】

https://www.jfc.go.jp/n/inquiry/index.html

https://www.jfc.go.jp/n/branch/index.html

以上