スタートアップのための知財戦略

August 18, 2021

執筆者:弁護士 今田 晋一

1 はじめに

  スタートアップには知財戦略が重要と言われますが、具体的に何をしたらよいのでしょうか。

  一口に「知財」(=知的財産)といっても、発明を保護する特許権や実用新案権の他、デザインを保護する意匠権、社名や商品名、ブランド名等を保護する商標権、著作物を保護する著作権など、対象となる権利は多岐にわたります。ノウハウ、顧客情報などの営業秘密も、重要な知的財産です。

  知財戦略は、資本政策と同様に、事後的に修正することが困難です。事業の初期段階で知財の戦略を十分に検討していなかったために、「自社のコア技術を保護できていなかった」「競合他社に周辺特許を押さえられて事業化に失敗した」「費用をかけて広告した自社のブランド名が使用できなくなった」といった事態に陥らないよう、起業前から知財戦略を検討しておく必要があります。

 

2 起業前の知財戦略

  特許権や商標権などの知的財産の権利化は、原則として先願主義(早い者勝ち)ですので、起業前から知財戦略を立てる必要があります。

  起業前に最低限チェックしておくべき事項は、以下のとおりです。

 

①他者の登録商標を確認しましょう。

自社の社名や商品名を決定する前に、その社名や商品名が既に商標登録されていないかを確認しましょう。

他者が商標登録している社名や商品名を使用すると、商標権侵害による使用差止や損害賠償の請求を受けるリスクがあります。

登録商標は、特許庁の「特許情報プラットフォーム J-PlatPat」で検索できます。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

 

②自社の社名や商品名を商標登録しましょう。

自社の社名や商品名を商標登録しておかないと、他者に無断で使用されたり、先に商標登録した他者から商標権侵害を主張されるリスクがあります。

商標登録することで、自社の社名・商品名として使い続けることができ、他者が無断で使用した場合は、商標権侵害を理由に使用の差止等を求めることができます。

 

③競合他社の特許・意匠を確認しましょう。

自社の技術やデザインが競合他社の特許権や意匠権を侵害すると、使用の差止や損害賠償の請求を受けるリスクがあります。また、自社のコア技術・デザインが他者の権利を侵害していると、事業を継続できなくなる可能性もあります。

他者の特許や意匠も、特許庁の「特許情報プラットフォーム J-PlatPat」で検索できます。

 

④コア技術・デザインを権利化しましょう。

競合他社の特許や意匠を確認したら、自社の製品・サービスの核(コア)となる技術やデザインを、特許権や意匠権として権利化しましょう。

コア技術・デザインを権利化し、独占することによって、他者による模倣を防止し、事業の差別化を図ることができます。

また、将来、この権利を他者にライセンスすることによって事業の提携、拡大を図ることもできます。

さらに、自社の技術力や信用、ブランドの裏付けにもなりますので、資金調達やEXITの成否にも重大な影響を与えます。

コア技術・デザインの権利化は、スタートアップの事業の成否に重大な影響を与えますので、弁理士・弁護士などの知財専門家を活用して、以下に述べるような視点から、戦略的に行うことが必要です。

 

3 知財戦略のポイント

  以上からすると、スタートアップの知財戦略としては、アイデアを出来るだけ早く特許や意匠として出願し、広く権利化することが重要と思われるかもしれません

  たしかに、権利化の範囲が狭いと、他社に周辺特許を押さえられ、自社のビジネスに支障をきたす可能性があります。

  他方で、特許権等の取得、維持にはコストがかかります。特に、海外での事業展開を考える場合は、国内のみでなく海外でも権利を取得する必要があります。

  また、特許は出願から1年半で公開されます。技術の内容によっては、特許出願によって公開するのではなく、ブラックボックス化する方が有用な場合もあります。

  知財戦略は、スタートアップの事業分野や成長ステージ、経済情勢等によっても変化しますが、重要なのは、経営戦略を考える上で、常に知財を意識することです。

 

①    事業戦略との関係

新たな発明をもとに事業を起こすには、まず、事業戦略を考える必要があります。

その際には、コア技術や製品・サービスの強みとマッチングする顧客やニーズを見極め、自社の優位性を維持する方法を考えることが重要です。また、開発から販売までの流れ(バリューチェーン)の中で、自社の強みを発揮するには、どの工程を自社で実施し、誰と協業するのかといったビジネスモデルの検討が必要です。

そうすると、知財戦略としても、技術を営業秘密として秘匿化するのか特許として公開するのか、特許化した技術を独占するのか他社にライセンスするのかといった点を検討する必要があります。

   なお、技術を営業秘密として秘匿化する場合、営業秘密が不正競争防止法によって保護されるためには、秘密管理性、有用性、非公知性といった要件を満たす必要がありますので、特に秘密管理性の要件との関係で、情報管理が極めて重要になります。

 

②    マーケティング戦略との関係

どこの市場を狙うのかが定まると、誰が競合相手になるかが明確になります。そうすると、どの国で知的財産権を確保すべきなのかが問題になります。

また、市場を拡大しつつ競合他社の参入を防ぐために、権利化する技術と秘匿化する技術を組み合わせることが考えられます。例えば、製造工程の一部を外部に委託する場合には、リバースエンジニアリングによって模倣されやすい技術は権利化して外部に委託し、真似されにくいノウハウは秘匿化することが有用と考えられます。

このほか、自社のブランドを確立するために、適切に商標権や意匠権を取得することも重要です。近年、法改正によって商標権や意匠権の保護範囲が拡大されており、多様なブランディング戦略が可能となっています。

 

③    研究戦略との関係

競合他社との関係によっては、競合他社の技術を回避するために、自社の研究の方向性を変えなければならない場合もあります。また、参入障壁を強化するための技術開発も必要です。

また、他社と共同で研究・開発を行う場合には、あらかじめ、知的財産の取り扱いについて契約による取り決めをしておく必要があります。共同研究・開発による成果の帰属について明確にしておかないと、パートナーが先に権利を取得してしまったり、あるいは、出願前に論文や展示会などで公開してしまい、新規性が失われ、権利化が認められなくなってしまいます。特に、共同研究においては、成果の公開についてパートナーと十分に協議しておく必要があります。

   

④    人材戦略との関係

人材戦略においては、社内における知財マネジメント体制を構築することが必要です。

従業員の発明に対するインセンティブを高め、有用な人材や技術の流出を防ぐためには、職務発明規程を整備し、ガバナンスを強化することが重要です。優秀な人材が、有用な研究成果とともに社外に出てしまい、これを権利化してしまうというのは、よくある話です。

また、知財を重要な経営課題と捉えて迅速かつ的確に対応するには、他の経営課題にも対処しなければならない経営者だけでは難しい面もありますので、最高知財担当責任者(CIPO)を設置することが考えられます。

そして、研究開発の結果、新たな技術・発明が生まれれば、必要に応じて弁理士・弁護士などの知財専門家を活用しながら、それを戦略的に権利化していくことが求められます。

 

4 専門家、投資家による知財戦略支援

  以上のとおり、知財戦略は経営戦略の一部であり、スタートアップが起業当初から常に意識しておくべき重要な経営課題ですが、スタートアップ経営者は、どうしても他の経営課題に注力しがちで、知財は後回しになりがちです。特に、研究開発型ベンチャーの場合、とにかく技術を守ろうと考えがちです。

  しかし、冒頭にも述べた通り、知財戦略は、事後的に修正することが困難であり、スタートアップ経営者は、事業の初期段階で十分に知財の戦略を検討しておく必要があります。

  そこで、スタートアップの創成期から、知財調査、出願、契約等について弁理士や弁護士といった知財専門家の支援を受けるとともに、これらのコストを資金面から支援する投資家の評価・支援を受けることが重要と考えられます。

  知財専門家や投資家の支援を受けて、現在及び将来の市場や事業提携、EXITを見据えて、俯瞰的に経営戦略を考え、事業計画に反映させることが重要です。

  なお、特許庁は、投資家向けの手引きとして、「ベンチャー投資家のための知的財産に関する評価・支援の手引き」を作成し、よくある落とし穴とその対策をまとめてありますので、参考にしていただければと思います。

【参考URL】

https://ipbase.go.jp/public/guidance.php

 

以上