スタートアップのための著作権概説

February 15, 2022

執筆者:弁護士今西知篤

1 はじめに

 著作権は、産業財産権(特許権・実用新案権・商標権・意匠権)と異なり、登録制度がないため誰がどのような権利を持っているかが分かりにくく、日常的に権利侵害を起こしやすいので注意が必要です。また、著作権侵害が成立すると、民事上の責任だけでなく、刑事上の責任も問われるおそれがあることから、他者の著作権を侵害していないかどうかという点は、上場審査や知財デューデリジェンスといった場面でも重要になります。

 そこで、本記事では、スタートアップにおいて著作権侵害が問題になりそうな場面を例に、著作権侵害が成立するかどうかの検討方法について、事案に沿ってご説明します。

 本記事の内容

  ・著作権の概要

2 著作権の概要

(1)権利の性質

 著作物に関する権利には「著作権」と「著作者人格権」があります。

 「著作権」とは著作物の経済的利用に関する権利をいいます。

 著作権法は、著作物の経済的利用について、複製、演奏、上映などといった具体的利用行為を定めており、具体的利用行為について著作権者に独占的な権利を与えています。「著作権」は、経済的利用に関する権利であるため、他者へ譲渡することができる権利です。

 他方、「著作者人格権」とは、自己の著作物の利用態様についての自己決定権をいいます。その名のとおり、人格的な権利であり、著作物を創作した著作者に生じる権利であるため、他人に譲渡することはできない権利です。

 本記事では、主に「著作権」についてのみ触れたいと思います。

(2)登録制度・保護期間

 著作権・著作者人格権はともに特許権や商標権のように登録制度は設けられておらず、著作物が創作された時点から発生します。また、著作権に関しては、著作者の死後70年が経過するまで存続し(団体名義の著作物は公表後70年まで)、著作者人格権に関しては、著作者が死亡するまで存続します。

 そのため、当該著作物について、そもそも著作権及び著作者人格権が存続しているのか、誰が著作権及び著作者人格権を保有しているのかということが、著作物そのものから判断しにくいことに注意する必要があります。

 

3 著作権侵害の検討フロー

 著作権侵害が成立するかについては、以下の点を順に沿って検討する必要があります。

  ①問題となっている創作物が「著作物」にあたるか

            ↓

  ②著作権者は誰か

   (ア)著作者は誰か

   (イ)著作権の保有者(著作権者)は誰か

   (ウ)著作権の保護期間内か

            ↓

  ③問題となっている行為が著作物の利用行為にあたるか

            ↓

  ④権利制限規定の適用はあるか

            ↓

  ⑤権利侵害が成立する場合、どのような請求がなされるか

4 検討例

【設例】

(1) A株式会社内の従業員のグループが、自主的な勉強会を主催し、会社の宣伝のために用いるキャラクターを検討する目的で、漫画家Xが創作した漫画YのキャラクターZの画像をインターネットからダウンロードし、社内サイトで共有した。

(2) A株式会社の社長Bは、漫画Yに登場するZのセリフに感銘を受け、これをブログで発信した。

 

(1)①問題となっている創作物が「著作物」にあたるか

 「著作物」とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいいます。そのため、幼稚園児が描いた似顔絵も「著作物」に該当します。他方、スポーツのルール・自然科学の理論・宗教上の教義などは、「著作物」に該当しない傾向にあります。

 本件において、漫画YのキャラクターZの画像は、思想または感情を創作的に表現された、美術の範囲に属するものですから、「著作物」にあたります。

 他方、漫画に登場するセリフは、ありふれた表現であれば創作性が否定されることもありますが、まとまりのある創作的表現として「著作物」に該当する場合もあります。

(2)②著作権者はだれか

 (ア)著作者は誰か

 著作者とは、著作物を創作する者をいい、著作物の原作品に、または著作物の公衆への提供もしくは提示の際に、その氏名等を著作者名として、通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者として推定されます(著作権法14条)。

 本件であれば、漫画YのキャラクターZの画像やセリフの著作者は、当該漫画を創作した漫画家X氏になります。

 (イ)著作権の保有者は誰か

 著作物が創作された段階で、著作者に著作権が発生するので、通常であれば著作者が著作権の保有者(著作権者)になります。

 しかし、著作権とは著作物の経済的利用に関する権利なので、著作者は著作権を他者に譲渡することが可能です。しかも、著作権とは、特許や商標のように登録制度が設けられておらず、著作者が誰かということについて調査が困難です。

 そのため、著作者と著作権者が異なるケースが存在するので、注意が必要です。

 なお、著作権マーク「©」は、万国著作権条約3条により、日本のような無方式主義と方式主義の橋渡しをする方法として無方式主義の著作物が方式主義の国で保護を受けるためには著作権マークの表示が必要ですが、日本において、著作権マークは著作者の表示ではなく、著作権者の表示であるため、著作者の推認の規定(著作権法14条)の適用はされません。

 以下では、著作者である漫画家Xを著作権者であるとして扱います。

 (ウ)著作権の保護期間内か

 前述のとおり、著作権は著作者の死後70年が経過するまで存続します。

 仮に、著作者たる漫画家Xの死後70年を経過している場合は、著作権が消滅しているので、著作権侵害の問題は生じなくなりますし、漫画家Xが生存していれば当然保護期間内となります。

(3)問題となっている行為が著作物の利用行為にあたるか

 著作権とは、著作物を利用する権利であり、さまざまな利用行為に関する権利の総称です。

 著作権のさまざまな利用行為に関する権利(支分権)として、複製権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権、公の伝達権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権、二次的著作物の利用権が挙げられます。

 本件では、漫画のキャラクターの画像をインターネット上のサーバーからダウンロードする行為が著作権の複製にあたりますし、ダウンロードしたデータを社内サイトで共有する行為も著作権の複製にあたります。

(4)権利制限規定の適用はあるか

 仮に、ある行為が著作物の利用行為にあたるとしても、著作権法は一定の場合において著作権侵害が成立しないとの規定(権利制限規定)を置いています。

 たとえば、「私的使用のための複製」(著作権法30条)、「検討の過程における利用」(著作権法30条の3)、「引用」(著作権法32条)等として許される場合、著作権侵害は成立しません。

 本件では、会社内のグループでの複製は「私的使用のための複製」とは認め難いですが、著作権者の許諾を得てZをキャラクターとして利用しようとするA社が、その検討過程で必要な範囲の複製をする場合は「検討の過程における利用」にあたり、著作権侵害は成立しないと思われます。

 また、著作物をブログで発信する行為は、それが公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であれば、「引用」として認められます。公正な慣行としては、自己の表現と引用される著作物を明瞭に区別し、引用文が主にならないようにすることが必要とされています。

(5)権利侵害が成立する場合、どのような請求がなされるか

 上記(4)の権利制限規定の適用が認められないとなると、著作権侵害が成立します。

 著作権侵害が成立する場合、著作権者は著作権侵害者に対して、侵害行為の差し止め請求、損害賠償請求等を行うことができます。また、著作権侵害が成立した場合、民事上の請求とは別に、刑事上の責任も問われるおそれもあります。

 

4 まとめ

 以上が、著作権侵害が成立するのか、成立するとしてどのような請求がなされるのかということ検討フローになります。著作権侵害に該当するかどうかを検討する際は、上記フローに沿ってご検討ください。

 もっとも、上記フロー①〜⑤の各段階において様々な論点が介在するので、社内で判断に悩む場合には、弁理士・弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

以上