グレーゾーン解消制度(新規事業の法令適合性の確認)

February 21, 2019

執筆者:弁護士 伴城 宏

1 スタートアップ企業と新規事業の法令適合性審査

 スタートアップ企業が新しい事業を始めようとする場合、様々規制との関係で、法令適合性、許認可の要否を確認する場面が数多くあります。スタートアップ企業は、新しいテクノロジーにより従来の業務とは異なった、新しい視点でビジネスを始めるため、どうしても、既存の規制が想定していないケースが出てきます。許認可が必要な業態になると、どうしても立ち上げに時間と費用がかかってしまい、ビジネスとしての目的を達成できない場合もでてきます。ビジネスの仕組みを、本質的でない点で少しだけ変えるだけで規制を回避できることもあります。

 今回は、2014年1月に産業競争力強化法に基づいて設置された「グレーゾーン解消制度」についてご説明します。

 

2 制度を利用する前に

 ⑴ 事前の調査

  グレーゾーン解消制度を利用する前に、そもそも、どの法令のどのような点が問題なのか、それが「グレーゾーン」にあたるのかも分からないケースも多いと思います。

  そのため、新しいビジネスがどの法令に関係するのか、また、どの法令のどの条項の解釈が問題になっているのか、という点を整理する必要があります。

  ビジネスにするにあたっては、法令に熟知している必要がありますので、まずは、自社で調べていただき、必要に応じて弁護士にも相談して下さい。

 

 ⑵ 省庁に電話で問い合わせる

  この事前調査において、弁護士もよく使う方法として、法令を所轄する省庁に「電話で問い合わせる」という方法があります。

  省庁にいきなり問合わせするのは勇気がいりますし、どこに電話したらよいのかも分からないことが多いかもしれませんが、経験的には、各省庁の担当の方は、かなり親切に教えてくれることが多いです。問題になっている法令が分かれば、省庁の代表電話に電話すると、担当部署につないでくれます。新しいビジネスを始めるときには、業界の規制について素人なのは当たり前なので、遠慮なく、聞いていただいたらよいと思います。

  メリット・デメリットを整理すると、以下のとおりです。

メリット

・匿名でも問合せ可能
・手軽
・問題点の整理に役立つ

デメリット(限界)

・一般論の回答
・適法のお墨付きはもらえない
・明確な回答をもらえないこともある

  一通りの法令調査を終えたものの、判断が微妙であり、新しいビジネスを始めるにあたっては、適法・違法を明確にしておく必要があるケースが出てきます。そのような場合に使い勝手のよい制度として「グレーゾーン解消制度」があります。

 

3 グレーゾーン解消制度

 ⑴ 制度の概要

  グレーゾーン解消制度は、事業者が現行法令の適用範囲が不明確な場合においても、安心して事業活動ができるよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ法令の適用の有無を確認できる制度です。

  これまで類似の制度として、法令適用事前確認制度(ノーアクションレター制度)がありましたので、それとの比較で、制度の特徴についてご説明します。

 

 

 ① 対象法令

  確認できる法令の範囲は、国の法令が根拠となる規制であればすべて可能です。確認対象の法令は複数でも構いません。

 ② 照会先

   照会先は、新しいビジネスを所管する省庁(事業所管省庁)となります。所管省庁がない場合には、経済産業省が窓口となります。複数の官庁にまたがる照会の場合にも、どこか一つの官庁に照会すれば、当該官庁が窓口となって複数の官庁に照会します。

 ③ 回答期間

   回答期間は、原則として申請があってから30日以内とされています。ただし、実際には事前相談を行って、照会内容について調整を行い、照会内容が確定してから正式申請となりますので、もう少し時間がかかるものと考えておいた方がよいでしょう。

 ④ サポート制度

   グレーゾーン解消制度では、主務大臣は、照会をする者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うものとされています(産業競争力強化法第8条)。

   経済産業省の問い合わせ窓口は「新規事業創造推進室」となっており、相談の段階から、アドバイスを受けることができ、時には、新しいビジネスを行うために規制をどのように回避するのかについてのアドバイスを受けることもできます。

 ⑤ 回答結果の公表

   産業競争力強化法第7条2項、3項では、本制度による回答結果は公表されることになっています。ただし、実務上は、照会者の同意が得られた場合にのみ公表するものとされ、また、公表する場合も、その内容は抽象化され、照会者やビジネスの具体的内容については黒塗り、又は、省略されることが多いです。

 

⑵ 相談の手順

   照会書の内容は、概ね以下のとおりです。

 1.新事業活動及びこれに関連する事業活動の目標

   ⑴ 事業目標の要約、⑵ 生産性の向上又は新たな需要の獲得の見込み

2.新事業活動及びこれに関連する事業活動の内容

   ⑴ 事業概要、⑵ 事業実施主体、⑶ 新事業計画を実施する場所、⑷ その他

3.新事業活動及びこれに関連する事業活動の実施時期

   事前相談をすれば書き方などについてもアドバイスをもらえます。

 

 ⑶ 利用しやすい制度

   グレーゾーン解消制度は、実際に使ってみると非常に使い勝手のよい制度です。

   各省庁の相談窓口の担当者も親切でレスポンスも早く、規制官庁に問い合わせるよりは、積極的にアドバイスをもらえたりします。

   多くの問い合わせ窓口になる経済産業省の担当部署は、「新規事業創造推進室」とのネーミングに表れているように、新しい事業を認めていきたいという意気込みを感じます。

   グレーゾーン解消制度の回答結果については、各省庁で公表されています。

   経済産業省の場合、2018年、2019年度の2年間で合計46件の回答が公表されています。

https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/result/gray_zone.html

 

 ⑷ 注意点

   回答は照会のあった法令について限定されており、どのような法令が問題になるかは照会者の責任で調査、特定する必要があります。不安な点があれば弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。

   

4 その他の規制緩和に関する制度

  グレーゾーン解消制度は、新規ビジネスをする場合の法令解釈を明確にするための制度ですが、そもそも、規制自体を緩和するために以下のような制度もあります。

  ビジネスによってはこのような制度の活用も検討して下さい。

以上