執筆者:弁護士 佐藤 樹
(目次)
1.生成AIの利用における法律問題
2.生成AIの利用における注意
3.まとめ
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1.生成AIにおける法律問題
生成AIとは、ChatGPT、Gemini、Copilot、Canva等の会話、画像、動画等を自動で生成するAIツールの総称です。急速に普及が進んでおり、スタートアップを含めて企業でも生成AIを活用する場面が増えてきており、実務的にもクライアントからの相談が増えている分野です。生成AIは、便利な反面、その利用に当たって法的なリスクを生じる場合がありますので、利用に当たっては当該リスクを検討する必要があります。以下では、主要な法的なリスクとしてあり得るものを検討します。
(1) 秘密情報保護の観点からの問題
生成AIツールの中には、入力したデータを学習データとして用いる設定になっているものがあります。特に無料利用の場合には学習データとして利用されることが規約等において明示されているものが多いです。
学習データとして利用されることの問題は、入力した情報が意図しない形で利用されてしまうことにあります。
自社の営業秘密を入力した場合にはその漏洩の問題がありえますし、他社から提供された秘密情報を入力するような場合には、NDAなどに基づく他社に対する秘密保持義務違反となる可能性もあります。
(2) 個人情報保護の観点からの問題
個人情報保護法においては、個人情報の利用はあらかじめ特定された利用目的の範囲でしか行うことができませんので(個人情報の保護に関する法律第17条及び第18条)、個人情報を生成AIに入力するような場合には、当該利用目的との関係で問題がないかの精査が必要です。
また、生成AI側で入力したデータを学習データとして利用されるような場合には、生成AI事業者に対する個人情報の「第三者提供」(個人情報の保護に関する法律第27条)に当たる可能性が高いため、生成AI事業者に対して個人情報を渡すことについて本人からの同意が必要になる場合があります。
なお、生成AIにおける学習データとして利用されず、入力者との関係でのみ利用される場合には「第三者提供」ではなく、「委託」として整理されることになりますので原則として同意は不要ですが(個人情報の保護に関する法律第27条第5項第1号)、委託先に対する監督が必要となります(個人情報の保護に関する法律第25条)。ただし、「委託」として整理される場合でも、当該生成AI事業者が外国にある第三者に当たる場合には、個人情報の保護に関する法律第28条第3項に定める要件を充足しているか等の検討が必要となります。
(3) 著作権に関する問題
生成AIは、膨大な学習データをもとにコンテンツを生成しており、特に画像生成AIや動画生成AI等においては、偶然に第三者の著作権等を侵害する可能性があります。また、生成AIにより生成されたコンテンツの著作権は、生成方法によってはその生成を行った者に著作権が帰属しない場合があります。「人が思想感情を創作的に表現するための道具としてAIを利用した場合」にはその生成を行った者に著作権が帰属すると考えられていますが、AIが自律的に作成したのか、利用者がAIを道具として作成したのか、分水嶺が明らかではなく著作権の帰属先が不明瞭となるリスクもあります。さらに、生成AIへの指示やデータ入力時にも注意が必要で、著作権法30条の4の規定の範囲内で行う必要があります。
AIと著作権の問題については、以下の文化庁の資料にまとめられています。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html
2.生成AIの利用における注意
以上のとおり、生成AIには、法的なリスクがあるため、利用時には注意が必要です。具体的には、以下のような点に留意する必要があります。
(1) 秘密情報保護の観点からの問題
原則として、秘密情報(自社の営業秘密や秘密保持義務を負って他社から受け取った情報など)に該当するものは生成AIに入力しないよう注意が必要です。学習データとしての利用がされない生成AIであればリスクは低くなりますが、このような場合でも生成AI事業者において実際にどのような運用がされているかはブラックボックスですので、重要度の高い秘密情報を入力することはやはり避けるべきです。
また、生成AIの業務利用を認める場合には、秘密情報の利用に関して生成AIの活用を意識した秘密情報保護規程を作成したり、生成AIの利用に関するガイドラインを策定するなどして、社員に対して注意を喚起することも有用です。
(2) 個人情報保護法の観点からの問題
こちらも秘密情報と同様に、原則として、個人情報に該当するものは生成AIに入力しないよう注意が必要です。個人情報の場合には個人情報の保護に関する法律との関係で検討すべき事項が多岐にわたりますので、どうしても個人情報を生成AIに入力する必要がある場合には、その都度、同法との関係で問題がないかどうか検討する必要があります。
(3) 著作権に関する問題
生成AIを利用して生成したコンテンツの利用については、著作権侵害の可能性がありますので、既存の著作物に類似しないかの確認を行うとともに、類似が確認できない場合でも万が一の著作権侵害に備えての対応を事前に定めておく必要があります。特に著作権侵害に関する「依拠性」(既に存在している著作物等を視聴し、それに基づいて創作すること)の判断において、生成AIに対して出した指示の内容や生成過程が重要になりますので、万が一に備えてこれらの過程を確認可能な方法で保存しておく必要があります。
4.まとめ
生成AIは、業務効率改善のために有用であるため、可能な範囲で積極的に利用していくべきですが、法的なリスクを認識し、当該リスクへの対応策を検討したうえで利用することが望ましいです。
知らないうちに社員によって生成AIが業務に積極的に利用されている場合も多いため、生成AI利用に関するガイドラインの作成を含めた法的リスク及び対応策の社内周知を行うことも有益です。
以上