景品類、表示に関する規制の注意点

August 17, 2021

執筆者:弁護士 江上 裕騎

(目次)

1 スタートアップと景品表示法の規制

2 不当表示の規制

 ⑴ 不当表示とは

 ⑵ 有利誤認表示

 ⑶ 優良誤認表示

 ⑷ その他の表示

3 景品類の規制

⑴ 景品類とは

⑵ 一般懸賞・共同懸賞

⑶ 総付景品

⑷ コンプガチャ等の禁止

4 終わりに

 

 

1 スタートアップ企業と景品表示法の規制

  販売促進のために広告を行う場合や、来店者や購入者に商品券やクーポンなどを交付するという場合には、景品表示法の規制に注意が必要です。

  景品表示法は、正式には、不当景品類及び不当表示防止法といい、①商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを規制するとともに、②過大な景品類の提供による不公正な競争を防ぐために景品類の最高額を制限することを定めている法律です。

  景品表示法に違反する不当な表示や過大な景品類の提供が行われていると認められた場合、消費者庁が、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」を行います。

  措置命令が行われた場合、具体的な企業名が公表されてしまいますので、その後の企業活動に悪影響が生じるおそれがあります。

  また、不当表示のなかでも優良誤認表示・有利誤認表示(その内容は、以下でご説明します)をしていると認められた場合には、消費者庁から、課徴金の納付を命じられることがあります。

  なお、違反の事実が認められない場合であっても、違反のおそれのある行為がみられた場合は指導の措置が採られます。

  以上のように、特に一般消費者を相手とするような事業を行う企業においては、景品表示法の規制に違反しないよう注意する必要があります。

  今回は、このように注意すべき景品表示法の規制についてご説明します。

 

2 不当表示の規制

 ⑴ 不当表示とは

  不当表示は、①品質、規格その他の内容についての不当な表示(優良誤認表示)、価格その他の取引条件についての不当な表示(有利誤認表示)、③商品またはサービスの取引に関する事項について、一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ、内閣総理大臣が指定する表示(その他の表示)に分類されます。

  上記のとおり、不当表示は禁止されており、これに違反した場合には、措置命令や課徴金の対象となります。

 

 ⑵ 優良誤認表示

  優良誤認表示とは、商品やサービスの品質、規格等について、実際のものに相違して、競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示をいいます。

  たとえば、実際は他の競業事業者においても、同様の技術を使用した商品がある場合に、「当社だけの新技術!!」というように表示(広告)していた場合には、優良誤認表示に該当します。

  スマホゲームのいわゆるガチャで、実際に入手できる物よりも優良な物を入手できる可能性あるかのように表示して場合等も、この優良誤認表示に該当します。

  優良誤認表示は、実際のものよりも著しく優良であると誤認されるものですから、「実際のもの(実際の状況)」との比較がなされることになります。

  この実際のものとの比較に関し、景品表示法では、内閣総理大臣が、事業者に対し、期間を定めてその表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出求めることができることとされています。そして、資料の提出を求められた事業者が資料を提出しなかった場合には、当該表示は優良誤認表示とみなされることとされております。

  したがって、事業者は、表示が実際のものと比べて著しく優良であると誤認させるようなものではないことを客観的な資料をもって、示せるようにしておかなければならないといえます。

  なお、「著しく」優良と誤認させるかどうかは、誇張・誇大の程度が社会一般に許容される程度を超えているかどうかという観点から判断されます。

  その誤認がなければ顧客が誘引されることが通常ないであろうと認められる程度の誇大表示であれば、「著しく」優良であると一般消費者に誤認される表示に当たります。

 

 ⑶ 有利誤認表示

  有利誤認表示とは、商品やサービスの価格等の取引条件について、実際のものに相違して競争事業者のものより著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をいいます。

  たとえば、「開業記念、今だけ半額!!」という表示をしておきながら、実際は開業から何年経っても半額の価格設定で商品やサービスを売り続けるというような場合が典型例です。また、たとえば、「新製品」「新発売」といったフレーズは、各業界の公正競争規約において使用できる期間が6ヶ月または12ヶ月以内とされています。

  このように、実際よりも著しく「お得である」「買い時である」等と誤認させる表示を許すと、不当な表示による不公正な競争が生まれてしまいますし、消費者も正常な判断ができず不利益を受けますので、規制されています。

  上記のような典型例ではなくとも、たとえば、「通常価格」というような価格を基準として記載して、その金額からの割引キャンペーンを広告していた場合に、実際には、継続的に何かしらの名目で割引キャンペーンをしていたため、「通常価格」での販売実績はほとんどない、というような場合にも、有利誤認表示となり得ます。

  事業の開始時に、スタートダッシュで顧客を集めるために割引キャンペーンを行うような場合には、上記のような有利誤認表示に特に注意しましょう。

 

⑷ その他の表示

 その他の不当表示は、以下のように指定されています。

①無果汁の清涼飲料水等についての表示

②商品の原産国に関する不当な表示

③消費者信用の融資費用に関する不当な表示

④不動産のおとり広告に関する表示

⑤おとり広告に関する表示

⑥有料老人ホーム等に関する不当な表示

 上記のうち、意味の分かりにくい「おとり広告」について少しだけ説明します。

 おとり広告とは、実際に販売していない商品を表示したり、商品の数が著しく限定されているにもかかわらずその限定内容を明記せずに表示したりすることです。

 要するに、実際はほとんどの消費者は購入できないのに、ほとんど購入できないことを明記せずに、広告を出して消費者を誘引する(そして、別の商品を買わせようとする)という行為を禁止しているということになります。

 

3 景品類の規制

⑴ 景品類とは

ア 概要

  景品表示法では、規制の対象となる「景品類」とは、

顧客を誘引するための手段として

事業者が事故の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する

物品、金銭その他の経済上の利益

   をいいます。

  なお、正常な商慣習に照らして、値引きやアフターサービス、附属品と認められるものは、景品類には該当しません。

  上記の定義の中で、問題となりやすいのが、①「顧客を誘引するための手段として」という要件(顧客誘引性)と、②「取引に付随」しているかどうかという要件(取引付随性)です。

 イ 顧客誘引性

①「顧客を誘引するための手段として」に該当するかどうかは、客観的にみて、顧客を誘引する手段となるかという基準で判断されます。そのため、事業者としては顧客を誘引するための手段としては考えていなかった場合でも、これに該当してしまうこともあります。

ウ 取引付随性

 たとえば、商品の購入者に対して、他の物品を提供する場合などは、取引することを条件として利益を与える場合が、取引に付随していると典型的にいえるものです。

 しかし、取引に付随している場合とは、上記のように取引を条件とする場合に限らず、たとえば、来店した人全員に物品を提供する場合のように、取引が成立したか否かを問わない場合であっても、取引に付随していることになります。

 取引に付随するものに該当しない例としては、たとえば、「○○(商品)をご友人・ご家族等にご紹介いただいた方に1万円プレゼント」というように、紹介者に対する謝礼として経済上の利益を提供する場合が挙げられます。この場合には、あくまでも紹介に対する謝礼であって、その紹介者が取引を行った人かどうかを問わないのであれば、謝礼自体は、取引と関係して与えられたものではありませんので、取引に付随はしないことになります。ただし、ここでいう「紹介者」を「当該商品を購入した人」に限定する場合には、その限定により、取引を行ったことが謝礼を受け取る条件の一つとなってしまいますので、取引に付随することになってしまいます。

 アンケートに対する謝礼も、取引に付随するものではないため、原則的には、景品類に該当しません。ただし、アンケートの内容が、商品やサービスの購入を前提としてその評価を尋ねるものである等、取引を前提としていたり、取引を誘引したりしているような場合には、取引に付随するものと判断され、景品類に該当し、景品表示法の規制対象となるおそれがあります。

エ まとめ

 以上のように、取引付随性をはじめとして、景品類に該当するか否かは、微妙で判断が難しいケースもあります。自社が行おうとしているスキームが景品表示法上の景品類に該当するかどうか迷ったときは、専門家である弁護士に確認することをお勧めします。

 

⑵ 一般懸賞・共同懸賞

「懸賞」とは抽選、じゃんけん等の偶然性や、特定の行為(パズル、クイズ、競技等)の優劣または正誤を利用して景品を提供することを言います。

共同懸賞は、複数の事業者が共同して景品類を提供するものですが、このような方法で懸賞を行うスタートアップはあまり多くないと思いますので、詳しくは割愛します。

一般懸賞は、共同懸賞以外の懸賞をいいます。

一般懸賞、共同懸賞には、以下のとおり、取引価額によって、最高額や総額の規制があります。

 

 

  ここで、一般懸賞の規制の差を生む「取引価額」の考え方が問題となります。

  たとえば、①購入者を対象として、購入額に応じて景品類を提供する場合は、単純に、その購入額が「取引価額」となります。

②購入者を対象とするが、購入額の多寡を問わないという場合には、原則として「取引価額」は100円と考えます。

③購入を条件とせず、店舗への入店者に景品類を提供するという場合にも、「取引価額」は原則として100円と考えます。

  要するに、取引がそもそも条件となっていないような場合や取引金額がわからないような場合には、原則として「取引価額」は100円と考えることになり、景品類の最高額の規制は、上記の表に従い、2万円(100円の20倍)とされることになります。

 

⑶ 総付景品

 総付景品とは、購入者や来店者にもれなく提供される景品類や、申し込み順、先着順によって(上記の懸賞と異なり、運の要素や行為の優劣によることなく)提供され景品類いいます。

 この場合に提供できる景品類は、以下のとおりとされています。

 

 この場合の「取引価額」も、上記の懸賞の場合と同様の考え方で評価されますので、購入者限定であれば、購入金額が「取引価額」となりますが、購入者に限定しないような場合には、原則として「取引価額」は100円であるとして、景品類の最高額は200円以内となります。

 なお、総付景品の規制においてよく問題となるのが、無料クーポンや割引クーポンです。無料クーポンや割引クーポンも「景品類」に該当し景表法の適用がされる場合があります。もっとも、クーポンの表示方法、配布方法、用途によって例外的に景表法の適用がされないような形式にすることも可能です。

 

⑷ コンプガチャ等の禁止

「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法」(いわゆる「カード合わせ」の方法)を用いた懸賞による景品類の提供は、全面的に禁止されています。

 これは、その方法自体に欺瞞性が強く、また、射幸心をあおる度合いが著しく強いためです。

 上記のカード合わせの方法がどのようなものか、読んだだけではわかりにくいと思いますので一例を挙げますと、いわゆる「コンプガチャ」が、カード合わせの方法に該当するものとされています。

 「コンプガチャ」とは、オンラインゲームにおいて、ゲームの利用者に対し、有料ガチャ(ゲームの中で、偶然性を利用して、ゲームの利用者に対してアイテム等を供給する仕組み)によって、絵柄の付いたアイテム等を販売し、異なる絵柄の特定の組合せを揃えた利用者に対して、アイテム等を提供するものです。

 このようなコンプガチャは、全面的に禁止されていますので、注意が必要です。

 

4 終わりに

 今回は、景品表示法の規制についてご紹介しました。

 景品表示法の規制については、消費者庁が作成しているガイドブックもわかりやすいので、是非ご一読ください。

 広告を出してしまってから規制違反に気づいて大慌て、ということにならないように、景品表示の規制については、事前によく確認するようにしましょう。

以上