改正特定商取引法・ガイドラインを踏まえたサブスクサービスの留意点

September 13, 2022

執筆者:弁護士 江上裕騎

 

(目次)

 

1.はじめに

2.最終確認画面における表示の義務

3.問題となる具体例

4.終わりに

 

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1.はじめに

 2022年6月、一部の規定を除き、改正特定商取引法(以下「改正特商法」といいます。)が施行されました。

 上記の改正は、定期購入に関する消費者生活相談件数が近年急増していることを踏まえ、サブスクリプション課金を悪用する詐欺的な定期購入商法への対策を盛り込んだものです。たとえば、定期購入ではないと誤認させる表示等を行っていた場合、行政指導等の手続を経ることなく、即時に罰則が適用されることになりました。また、定期購入でないと誤認させる表示によって申込みをした場合において、申込みの意思表示の取消しを認める制度が創設されました。

 このように、改正特商法は、詐欺的な定期購入商法への対策を念頭に置いたものではありますが、その改正内容である申込み画面表示に関する規制は、詐欺的な定期購入商法に該当しない通常のサービスを行う事業者の皆様にも影響があり得る内容となっています。

 また、改正特商法の施行に伴い、通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(以下「本ガイドライン」といいます。)が公表されていますので、この内容を踏まえて、法令に違反しない適切な表示を行うようにする必要があります。

本稿では、主としてサブスクリプションサービスを行う事業者様を念頭に、改正特商法及び本ガイドラインの重要なポイントにつき、簡単にご紹介します。

 

2 最終確認画面における表示の義務

⑴表示義務の概要

 改正特商法では、申込みに係る手続が表示される画面(申込み内容の最終確認画面)に、下記の事項を表示する義務が課されています(改正特商法第12条の6)。

              記

  ・売買する商品・特定権利または役務提供する役務の分量

  ・販売価格、役務の対価

  ・引渡時期・移転時期・提供時期

  ・支払時期及び方法

  ・申込みの期間に関する定めがあるときはその内容

  ・申込みの撤回または解除に関する事項

 

 また、以下の表示を行うことは、禁止されています。

  ・申込みに係る手続が表示される画面(申込み内容の最終確認画面)に、その画面の手続に従った情報の送信を行うことが申込みとなることについて人を誤認させるような表示(つまり、実際は最終の申込みであるにもかかわらず、最終の申込みではないと誤解させるような表示)

  ・上記のとおり表示が義務づけられている各事項について、人を誤認させるような表示

 

 これらの規定は、サブスクリプションサービスに限らず、WEB等を利用して顧客から商品の販売や役務の提供に係る申込みを受ける場合に広く適用されます。

  サブスクリプションサービスに関する表示において、消費者トラブルとなることが多いものとして想定されるのは、販売価格や役務の対価に関する表示(たとえば、無償期間を経て期間経過後に有償となる場合のその説明の表示)や、申込みの撤回または解除に関する事項に関する表示(たとえば、解除に条件や複雑な手続が定められている場合に関する表示)ですが、これらの表示内容については、本ガイドラインにおいて、必要な表示内容について具体的な説明がなされています。

 

⑵本ガイドラインのポイント

ア 最終確認画面への表示の方法

 本ガイドラインでは、インターネット通販における最終確認画面は、ハガキ等の書面と比較するとスペース上の制約が少ないことから、改正特商法第12条の6で義務づけられている表示について、原則として、表示項目を最終確認画面に網羅的に表示することが望ましいとされています。

 もっとも、実務上は、改正特商法が要求するような表示事項を網羅的に一つの画面に表示するのではなく、詳細な表示事項については、最終確認画面に設けたURLのリンク先を参照する方式とする等の工夫がなされていることも多いと思われます。

 本ガイドラインは、この参照方式について、消費者が参照先ページで必要事項を容易に認識できるように表示していれば、最終確認画面にリンクを設置し、リンク先を参照する方式とすることは妨げられないとしています。したがって、実務上行われている上記の参照方式を取ることは、今後も可能ということになります。

 いずれにせよ、最終確認画面において表示を行う際には、契約内容等について、消費者からみて分かりやすく表示することが求められており、事業者としては、分かりやすい表示を心掛け、工夫すべきです。

イ 販売価格・対価について

 サブスクリプションサービスにおいて見受けられるような、無償または割引価格で利用できる期間を経て、期間経過後に有償または通常価格の契約内容に自動的に移行するという場合には、有償契約または通常価格への移行時期及び移行後に支払うこととなる金額を明確に把握できるように、あらかじめ表示する必要があります。

 また、本ガイドラインでは、消費者が解約を申し出るまで定期的に商品の引渡しがなされる無期限の契約や無期限のサブスクリプションの場合には、あくまでも目安にすぎないことを明確にした上で、1年単位の支払額等、一定期間を区切った支払総額を目安として明示するなど、消費者が容易に認識できるように表示しておくことが望ましいとされています。

ウ 契約の撤回や解除について

 契約の申込みの撤回又は解除に関しては、その条件、方法、効果等を表示する必要があります。解約時に違約金その他の不利益が生じる契約内容である場合には、当然、その内容を表示する必要があります。

 それらの事項は、基本的には、最終確認画面に分かりやすく表示する必要があります。

 上記のとおり、最終確認画面にリンクを設け、リンク先において表示する等の方法を採ることも基本的には問題ありませんが、本ガイドラインにおいては、①解約方法を特定の手段に限定する場合、特に、消費者が想定しないような限定がなされる場合や、②解約受付を特定の時間帯に限定している場合、③消費者が申込みをした際の手段に照らして当該消費者が容易に手続を行うことができると考えられる手段での解約連絡を受け付けないといった場合には、当該内容については、特に消費者が明確に認識できるよう、リンク先や参照ページの表示に委ねるのではなく、広告画面はもとより、最終確認画面においても明確に表示することが求められていますので、注意が必要です

 

 

3 問題となる具体例

 本ガイドラインでは、具体例として、たとえば、最終確認画面の申込みのボタンが、「送信する」と表示されている画面につき、それにより申込みが完了するということが容易に認識できないとして、改正特商法に違反するおそれがあると紹介されています。

 また、表示義務のある一部の表示事項を、申込みを確定させるボタンよりも画面上下となる離れた箇所に表示している例について、消費者を誤認させるおそれがあることから、改正特商法に違反するおそれがあるとされています。

 他にも、画面上部で「いつでも解約可能」と強調しておきながら、この表示と離れた画面下方に、小さな文字で解約条件や解約料について記載している画面表示が、改正特商法に違反するおそれがあるものとして紹介されています。

 なお、「いつでも解約可能」などと強調する表示は、消費者が、文字どおり、いつでも、無条件に解約できると認識する可能性が高いので、実際には、解約条件等が付いているにもかかわらず、「いつでも解約可能」といった表示をした場合には、「人を誤認させるような表示」(改正特商法第12条の6第2項2号)に該当するおそれがありますので、このような誤解を招く表示は避けなければなりません。

 これらの具体例については、本ガイドラインにおいて、画面例を示して分かりやすく紹介されておりますので、本ガイドラインの11ページ以下を一度ご確認いただくことをオススメします。

 

4 終わりに

 今回ご紹介した改正特商法や本ガイドラインの内容を踏まえて、サブスクリプションサービスを行う事業者の皆様はもちろん、そうではないウェブサービスを行う事業者の皆様においても、最終確認画面の表示について、対応の必要がないか、一度ご検討されてはいかがでしょうか。

以上