企業における人権尊重

December 15, 2023

執筆者:弁護士 今田晋一

 

(目次)

 

1.人権尊重の意義

2.人権尊重のためのガイドライン

3.人権尊重の取組の全体像

4.人権尊重の取組にあたっての考え方

5.おわりに

 

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1.人権尊重の意義

 大手芸能事務所における性加害問題が大きく報道されたように、人権尊重の取組は、企業の重要な経営課題です。

 企業による人権尊重の取組は、いうまでもなく、企業活動における人権侵害等の防止・軽減・ 救済を目的とするものです。

 スタートアップにおいても、人権侵害を理由とする取引停止、不買運動、投資先としての評価の低下、投資候補先からの除外等は、企業の存続にも関わる重大な経営リスクです。

 また、人権尊重の取組を実施、開示することによって、ブランドイメージの向上、投資先としての評価の向上、取引先との関係性の向上、新規取引先の開拓、優秀な人材の獲得・定着等につながり、国内外における競争力や企業価値の向上が期待できます。

2.人権尊重のためのガイドライン

 2011年、国連人権理事会において「ビジネスと人権に関する指導原則」(国連指導原則)が全会一致で支持されました。

 日本政府は、2020年、「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)」を策定し、2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます)を策定・公表しました。

 本ガイドラインは、国連指導原則をはじめとする国際スタンダードを踏まえ、企業に求められる人権尊重の取組について、日本で事業活動を行う企業の実態に即して策定されたものです。

 本ガイドラインは法的拘束力を有するものではありませんが、企業の規模・業種等にかかわらず、日本で事業活動を行うすべての企業(個人事業主を含む)が、国内外における自社・グループ会社、サプライヤー等(サプライチェーン上の企業及びその他のビジネス上の関係先をいい、直接の取引先に限られない)の人権尊重の取組に最大限務めることを求めています。

 政府は、公共調達の入札希望者/契約者に、本ガイドラインを踏まえて人権尊重に取り組むよう努めることを求める方針を示しています。

 海外では、人権尊重の取組を企業に義務付ける法制化が進んでおり、今後、企業に人権尊重の取組を求める動きはますます加速していくと思われます。

 

3.人権尊重の取組の全体像

 本ガイドラインにおいて示された人権尊重の取組の全体像は、以下の通りです。

 ⑴   人権方針の策定

  人権方針は、企業が人権尊重責任を果たすというコミットメント(約束)を、企業の内外のステークホルダーに向けて明確に示すものです。

 ⑵   人権デュー・ディリジェンス(人権DD)

  人権DDは、企業が、①自社・グループ会社・サプライヤー等における人権への負の影響(人権侵害等)を特定・評価し、②防止・軽減し、③取組の実効性を評価し、④どのように対処したかについて説明・情報開示していくために実施する一連の行為を指します。

  これは、ステークホルダーとの対話を重ねながら、人権侵害等を防止・軽減するための継続的なプロセスです。

 ⑶   救済

  企業は、自社が人権侵害等を引き起こし、又は、助長していることが明らかになった場合、救済を実施し、又は、救済の実施に協力する必要があります。

  救済の具体例には、謝罪、原状回復、金銭的または非金銭的な補償のほか、再発防止 プロセスの構築・表明、サプライヤー等に対する再発防止の要請等があります。

4.人権尊重の取組にあたっての考え方

 ⑴   経営陣によるコミットメント(約束)が極めて重要

  人権尊重の取組は、採用、調達、製造、販売などを含む企業活動全般において実施されるべきですから、企業トップを含む経営陣がコミットメント(約束)を表明し、積極的・主体的に取り組むことが重要です。

 ⑵   人権侵害リスクの企業はどの企業にもある

  いかなる企業にも人権侵害リスクは存在します。企業は、人権侵害リスクの存在を前提に、いかにそれらを特定し、防止・軽減するか検討すること、また、その取組を説明することが重要です。

 ⑶  ステークホルダーとの対話が重要

  ステークホルダーとは、企業の活動により影響を受ける又はその可能性のある利害関係者を指し、例えば、取引先、自社・グループ会社及び取引先の従業員、労働組合・労働者代表、消費者のほか、市民団体等のNGO、業界団体、周辺住民、先住民族、投資家・株主、国や地方自治体等が考えられます。

  ステークホルダーとの対話は、企業が、人権侵害の実態やその原因を理解し、対処方法の改善やステークホルダーとの信頼関係構築を促進するものであり、人権尊重の取組全体にわたって実施することが重要です。

 ⑷   優先順位を踏まえ順次対応していく姿勢が重要

  全ての人権尊重の取組を直ちに行うことが難しい場合は、まずは、より深刻度の高い人権侵害等から優先して取り組むべきです。

 ⑸   企業は協力して人権尊重に取り組むことが重要

  企業は、直接契約関係にある企業に対して、その先のビジネス関係先における人権尊重の取組全てを委ねるのではなく、共に協力して人権尊重に取り組むことが重要です。契約上の立場を利用して、取引先に対し一方的に過大な負担を負わせる形で人権尊重の取組を要求した場合、下請法や独占禁止法に抵触するおそれがあります。

  なお、取引停止は、自社と人権侵害等との関連性を解消するものの、人権侵害自体を解消するものではなく、むしろ、人権侵害等への注視の目が行き届かなくなったり、取引停止に伴い相手企業の経営状況が悪化して従業員の雇用が失われる等、人権への負の影響がさらに深刻になる可能性もあります。まずはサプライヤー等との関係を維持ながら人権侵害等を防止・軽減するよう努めるべきであり、取引停止は最後の手段として検討されるべきです。

 

5.おわりに

 イノベーションにより社会課題の解決を目指すスタートアップにおいて、人権尊重は重要な課題であり、あらゆるステークホルダーに配慮した人権尊重の取組が求められます。また、各種ハラスメントやジェンダー差別など、人権侵害のリスクはごく身近に存在します。

 当事務所には、人権擁護活動や公益的活動を含む多種・多様な経験を有する弁護士が在籍しており、多面的な人権尊重の取組をお手伝いすることが可能です。また、人権侵害やその可能性が判明した場面でも、迅速に最適解に向けた支援をさせていただきますので、ご相談いただければ幸いです。

以上