雇用でない形式の契約であっても、労働関係法規が適用される場合とは?

November 21, 2023

執筆者:弁護士 松山 領

(目次)

1.はじめに

2.雇用契約と判断される場合

3.  雇用契約と判断されないようにするポイント

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1. はじめに

 業務規模を拡大させるに当たって、新たな人材を迎えたいと考えたものの、正社員として雇用した場合に無視できないコスト(給与のみならず事業者の負担するべき社会保険料、交通費等の福利厚生費等)が生じることから、雇用でない形(業務委託契約、委任契約、請負契約)で対応している、というスタートアップも多いと思います。

 もっとも、これら「雇用契約」ではない契約によって人材を迎えた場合でも、実質的に雇用契約と判断されてしまう場合があります。

 この場合、「雇用契約」ではないにもかかわらず、労働関係法規が適用され、労働基準法の労働時間や休日の規制、労働契約法上の解雇権濫用法理の適用(解雇制限)等を受けることになります。そして、一歩間違えると、時間外労働をさせたにもかかわらず割増賃金を支払わなかった等として刑事罰の対象になったり、違法な解雇を行ったとして解雇無効を裁判で争われたりするリスクがあります。

2. 雇用契約と判断される場合

 雇用契約、業務委託契約、派遣契約等の特徴やメリット・デメリットは、過去の記事に譲ります。

 この記事では、どのような場合に、雇用でない形(業務委託契約、委任契約、請負契約)の契約が、雇用契約であると判断されてしまうのかにフォーカスして解説します。

⑴ポイント1

 まず、注意しなければならないのは、雇用でない形式、名称の契約書(業務委託契約書、委任契約書、請負契約書)を締結していても、そのことだけで、労働関係法規が適用されなくなるわけではないことです。

 その契約が雇用契約にあたるかどうかは、その契約の実態から客観的に評価されますので、注意が必要です。

⑵ポイント2

 では、契約の実態が雇用契約と判断される場合は、どのような場合でしょうか。

 この点、法律の実務上参照されるのが、厚生労働省のHP上に公表されている「労働基準法の『労働者』の判断基準について」です(昭和60年12月19日労働基準法研究会報告)。

 同報告の内容は長くて専門的ですので、簡単に説明しますと、雇用契約であるという判断を行う際には、主に、

  ㋐会社の指揮監督下の労務提供の形態であるかどうか

  ㋑報酬が労務に対するものかどうか

という大きな2つの観点(これを専門用語では「使用従属性」といいます)が重要になります。

 ㋐について、より具体的に例示すると、会社から仕事を受ける者が、

  ・会社からの仕事の依頼や業務指示に対し断れるような自由・対等な立場にない

  ・仕事の依頼の指示の限度を超えて、仕事の遂行の指揮監督を受けている

  ・会社の仕事以外の他の仕事を自由に行えない状況にある

  ・勤務場所や勤務時間が指定され、管理されている

  ・自ら補助者や他の者に仕事を振ることができない

といった場合、会社の指揮監督下の労務提供の形態である(=実態は雇用契約である)と判断されやすくなることになります。

 ㋑について、こちらも具体的に例示すると、

  ・仕事の成果ではなく、労務提供の対価としてお金が支払われている

  ・働いた時間によって支払われる金額が決まる

  ・逆に、休んだ場合は、その分、金額が減ることになる

といった場合、報酬が労務に対するものである(=実態は雇用契約である)と判断されやすくなることになります。

 当然、上記の㋐㋑で挙げた具体例に1つでも該当する場合に、ただちに、契約の実態が雇用契約であると評価されることにはなりません(あくまでも総合的に判断されるものです)。

3. 雇用契約と判断されないようにするポイント

 では、どのような点に注意すれば、契約の実態が雇用契約であると評価されることを適切に回避できるでしょうか。

 新たな人材を雇用でない形(業務委託契約、委任契約、請負契約)で迎える際に、注意するべきポイントとして、例えば、次の点が挙げられます。

⑴契約書で仕事の範囲を明確にする

 もちろん、雇用でなくとも、会社から仕事を受ける以上、事実上の力関係に一定の差があるのは否定できません。そのため、力関係に多少の差があるからといって、ただちに、仕事の依頼や業務指示に対し断れるような自由・対等な立場にないと判断されるということにはなりません。しかしながら、そのような状態が慢性的になると、仕事の依頼や業務指示に対し断れるような自由・対等な立場にないと判断される可能性が高まります。

 特に、依頼する予定の仕事の範囲が包括的で、支払う対価も例えば月30万円と固定にしてしまうと、会社が依頼する仕事は全て断れないという状況がより生じやすくなります。

 そこで、依頼する仕事の内容を具体的に特定し、どのような仕事に対し対価を支払うのか、より具体的に共通認識を形成し、契約書に落とし込むことで、会社が依頼する仕事は全て断れないという状況に陥ることを回避しやすくすることが可能です。

⑵勤務場所や勤務時間を指定しない

 勤務場所や勤務時間が指定され、管理されている場合、それは実態的に雇用契約であると判断される可能性が高まります。会社としては、依頼した仕事を期限内にこなしてくれるのであれば、いつどのような場所で仕事をしていようが基本的に自由である、という姿勢を取る必要があります。

⑶依頼する仕事内容と報酬を連動させる

 特定の仕事に対して対価を払う形(特定のWEBページの製作に対し30万円支払う)としている場合、依頼した仕事に対し対価を支払っていることが明らかなので、労務提供の対価としてお金が支払われているという判断はされにくくなります。

 他方、会社がその時々によって依頼する仕事をこなす、という契約内容で、月30万円の固定の報酬を支払うとしているような場合、実態として、労務提供の対価としてお金が支払われている(したがって雇用契約である)と判断される可能性が高まります。

 悩ましいのは、時間制報酬(タイムチャージ・アワリーチャージ)の場合ですが、この場合でも、実態として、労務提供の対価と判断されないように、より特定の仕事に対し、時間制報酬を支払うことを明確に取り決める(可能であれば契約書に落とし込む)ことが重要になってきます。契約上の業務内容が不明確・包括的で、報酬が時間制で支払われるとなると、雇用契約であるとの判断がされる可能性が高まってしまう点に注意が必要です。

以上