エクイティファイナンスの基礎

December 13, 2020

執筆者 弁護士 佐藤 樹

1 はじめに

会社を設立してから一番大きな問題ともなりうるのは資金調達の問題です。典型的な資金調達の方法としては、銀行や公庫を通じた融資(デットファイナンス)がありますが、株式会社においては、株式や新株予約権(エクイティ)を用いた資金調達が可能です。株式を用いた資金調達(エクイティファイナンス)は、単なる資金調達ではなく、会社の資本や構成員に大きな影響を与えますから、資本政策をしっかりと考えることが大切です。資本政策は「失敗したからやり直し」ということが極めて難しいものですから、慎重に専門家も交えて検討されることをお勧めします。

資本政策の基礎については、こちらをご参照ください。

2 エクイティファイナンスの種類

一口にエクイティファイナスと言っても、器となる仕組みには色々な種類があります。それぞれの 仕組み毎に特徴がありますので、資本政策に沿う適切な器を選択することが大切です。それぞれの活用場面やメリット・デメリットについては別記事をご参照ください。

・普通株式・・・一般的にいう株式です。株式自体に細かい条件等を組み込むことはできません が、投資契約において出資に関する細かい条件が組み込まれることが一般的です。

・優先株式・・・普通株式よりも優先的な条件が付された株式です。会社の利益剰余金から優先的 に配当を受けたり、会社を清算する場合の残余財産から優先的に分配を受けたり 、株主に有利な取得請求権を付する等という条件を株式自体に組み込むことがで きます。株式に条件を組み込むだけでなく投資契約において投資者に有利な条項 を加えることも一般的に行われています。

・転換社債型新株予約権付社債(転換社債)・・・社債(会社が発行する債券)と一体のものとして新株予約権を発行し、一定の条件を満たす場合には、社債と引き換えに新株を

取得できるという仕組みのものです。社債のまま利息を得て元本を満額返還してもらうこともできる一方で、株価の値上がりに期待して社債から株式に転換できることから、投資家にとって選択のメリットがある仕組みです。新株予約権としての性質があるため、新株予約権と同様に様々なオプションを組み込むことができるという利点もあります。

・新株予約権・・・一定の条件を満たす場合に、株式を取得できる権利を投資者に与えるものです。株式交付のタイミングや株式を交付する際の株式数を、当該投資者の後の投資

者の条件から逆算的に反映させることが出来る等、様々なオプションを新株予約権自体に組み込むことができるので、スタートアップにおいて広く使われるようになっています。代表的な仕組みとして J-KISS(Coral Capital が無償公開しているスタートアップ向けの新株予約権スキーム)があります。

3 エクイティファイナンスのメリット・デメリット

エクイティファイナンスを行う場合のメリット・デメリットは次のとおりです。メリット、デメリットを踏まえてしっかりとした資本政策を考えることが重要です。エクイティファイナンスには、デットファイナンスにはない魅力的なメリットがありますが、その一方で大きなデメリットあります。

メリット

・融資ではないため利息支払いや返済義務がない。

・負債とはならず資本となるため、バランスシートの改善に繋がる。

デメリット

・株式割合が変動することになるため、新たに発行する株式比率(新株予約権の転換条件)によっては、投資者が経営の障害となる場合がある。創業者の持株比率が低すぎて上場に障害が出たり、投資者との意見対立が生じる等。

・第三者割当ての場合には、創業者を含め既存株主の持株比率や株式価値が希釈化される。

・株式の発行に伴って発行済株式総数が変動したり、優先株式の発行を行う場合があるため、登記を行う必要がある。

4 エクイティファイナンスにおける失敗とは

2に記載のとおり、エクイティファイナンスは、最終的には会社の経営権を左右する株式を出資者に交付することから株主が増えることとなり、場合によっては当該株主が経営の障害となる場合があります。もっとも、株主は、本来会社の経営を一緒にしていく仲間でありますから、経営の障害となるような人に出資をしてもらう時点で、資本政策としてはあまりうまくいっていないと考えられます。

単に資金調達だけを考えるのではなく、「一緒に会社経営を助けてくれる仲間にどれくらいの株式を渡すか」という視点をもって資本政策を考えることが大切です。

よくあるスタートアップの失敗としては、会社の理念や経営に賛同してくれているわけではないエンジェル投資家や VC(ベンチャーキャピタル)から、資金を調達したいがためだけに、不利な投資契約を締結させられてしまうケースがあります。

たとえば、取締役の任命について一切の任命権を投資者に与えるとの条項や、本来であれば保証しきれない範囲まで含む広範な表明保証条項、軽微な契約違反によっても投資家が株式買取請求権を行使できる条項、会社経営における広範な選択や決断において事前に投資家から承諾を得なければならない条項など、スタートアップを縛る不利な投資契約を締結させられてしまうことがあります。いったんこれらの契約を締結するとその契約を無かったことにはできませんから、投資を受けるときに慎重な検討が必要になります。

投資契約書は難解な法律用語が多用される等、慣れていない方からすると意味が分からない部分も多くありますから、専門家の助けを借りる等してしっかりと内容を理解したうえで、投資をしてもらうことが大切です。

以上